⑤アクアチントと腐蝕
ニードル描画のみ(左)とアクアチント後(右)の比較
(ニードル描画は試し刷りのため、黒インクで刷っています。完成作品はセピアインクを使用。)
アクアチントは銅版に、面のトーンを刻む技法です。
銅版に細かい粒子を定着させた状態で腐蝕液に漬けることで、粒子の付着部のみが防蝕され、銅露出部が細かいドットのように腐蝕される・・・というもの。腐蝕液に漬けこむ時間によって、凹の深さ、つまりトーンの濃さを調節します。
この細かい粒子というのは、松ヤニのことです。
スポーツ選手が滑り止めのために手にパッパッとふりかける、あの白い粉です。
この琥珀色のカタマリ…これが松ヤニのおおもとです
(サイズ比較のため、ガラパゴス携帯とともに・・・)
このかたまりを幾つか二重の袋に入れて、金づち(とんかち?)的なものでガンガン砕きます。
次に 小さくなったカタマリを乳鉢に入れて、乳棒でゴーリゴーリと挽きます。
このよーな↑淡いクリーム色のような 白いような色になります。
このとき、版を刷ったときにザラザラした質感のトーンにしたければ荒く、きめ細かなしっとりした質感のトーンにしたければ、しっかりと細かく挽いておく必要があります。
わたしは 荒・細の2種類をつくっています。
好みの荒さの松ヤニができれば、
これで下処理OKです。
粉塵対策としては、30Lくらいの大きめのビニル袋に乳鉢と乳棒を入れて、乳棒を持つ手だけを袋の中に入れたら、もう片方の手で外側からビニールの口を集めて乳棒を持った手の腕のところで握ると、、、まわりに粉塵が舞いませんので助かります。
↓細かく挽く前の松ヤニのかたまり。
好みの粉ができたらアクアチントBOXにセッティングします。
ここで私の2代目アクアチントBOXをご紹介・・・
全体の大きさが分かるように 塩コショウを添えてみました
このBOXは手作り額や 解体した大作のパーツ、じぃちゃんの木材のあまり などを使ってできています
↓額の木材
取手を下に開いて、網を引き出したところ
松ヤニの粉が溜まるところ↓
松ヤニが漏れるのを防ぐために、ギリギリまでつっぱり棒付きビニールカバー
つっぱり棒が網の木枠に乗って↓版には触れないようになっています
空気を送り込む穴は 普段はお風呂の栓みたいなので塞ぎます
この穴から ふいご で空気を送り込み、中の松脂の粉をBOXいっぱいに噴き上げます。
私は簡易なコンプレッサーを手に入れたので、それで空気を送り込んでいます。
それからBOX下部の網に版をセッティングして扉を閉め、粉塵が下に沈下していくところを版面で受け止めるのです。
版にいい具合に松ヤニがのったところでソ~っとBOXから版を取り出し、今度は別の金網に乗せて、カセットコンロの弱火で下からあぶります。白い松ヤニの粉が溶けて透明になったら炙るのをやめて、版の熱が冷めるのを待ちます。これで、松脂が版表面に定着しました。
↓版表面に定着した松ヤニ。黄色い透明のつぶつぶが乗っているように見えます。(画像をクリックして拡大して見てみてくださいね。)
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚
版が冷めたら、アクアチントで腐蝕したくない部分を防蝕します。
私は黒ニスを使うことが多いです。油分のにじみが少なく、はっきりしたラインで防蝕できるからです。
部分防蝕が済んだら、腐蝕液に漬けこみます。
アクアチントの腐蝕は20秒から数分程度が一般的かと思います。
腐蝕時間、松ヤニの粒子サイズや量、気温(暖かいほど腐蝕進行が早い)の差が如実に表れます。
目標の時間に達したらすぐに腐蝕液から上げて滴る液を切り、水洗いします。
腐蝕液から上げて水洗いする間にも腐蝕は進みますから、それも考慮して素早く動いてください。
私の作品ではその殆どが、アクアチントの応用としてスピットバイトの技法を用いています。
スピットバイトというのは、版を腐蝕液に漬けこまずに筆などを用いたり、腐蝕液の水滴を落としたりして版と反応させる方法です。防蝕作業による面分割で表現できないトーンの諧調変化や、にじみを表現することができます。
腐蝕は、防蝕作業も含めて他にも様々な技法が存在しますが、私は主にこの基本のアクアチントとスピットバイトを用いますから、ここではそのふたつのみご紹介しました。
多くの銅版画家の先人が多彩な技法を確立していますので、その中から自分のイメージを描くのに必要なものを選んだり、実験したりしながら、独自の方法論に展開していくと良いですね。
最後に、腐蝕を完全に止めるために、しょうゆをかけたら腐蝕作業完了です。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚
腐蝕作業がすべて完了したら、溶剤で版上のグランドや黒ニスを洗い落とします。
深い凹部や防蝕剤を重ねて塗布しているところなどは、筆で軽く擦って、よく溶かしてから布でふきとったほうが早いです。
【 腐蝕銅版画 制作工程 】